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仙台高等裁判所 昭和34年(ネ)207号 判決 1959年10月06日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、控訴代理人が、

一、農地の買収処分が違法であるかどうかは、処分当時を基準として判定すべきで、その後の事情の変更を考慮すべきではない。本件農地の買収の時期は昭和三二年三月一五日であつて、買収令書は同年五月一六日訴外武田清子に交付されたものであるところ、同訴外人と被控訴人との間の養子縁組無効確認請求事件の判決が確定したのは、同年九月一一日のことである。したがつて本件買収処分の効力は、その後における右判決の確定により影響を受けないから、適法である。

二、被控訴人が無効であると主張する養子縁組は、被控訴人が昭和一九年三月五日当時六九才の高橋恒吉と婚姻した後、同年八月二〇日自分の妹である武田清子(当時十五才未満)を養子としようとして、清子の両親にも相談せず、夫恒吉の承諾を得ることもなく、自ら同人らの名義を冒用して養子縁組届書を作成してこれを届け出たものであるという。してみれば、被控訴人は、自分の不法な行為すなわち他人名義の文書を偽造し、右文書を行使し、公正証書の原本に不実の記載をさせたということを原因として、本件買収処分の取消を求めることに帰着するものというべく、このような主張は、全く法律秩序を無視した違法な主張であつて、許されないものである。と述べたほか、原判決の事実摘示と同じであるから、ここにこれを引用する。

理由

本案前の抗弁および予備的請求に対する判断は、つぎに加えるもののほか、原判決の判断と同じであるから、原判決のこの点に関する理由をここに引用する。

一、控訴人の前記一の主張について

農地の買収処分が違法であるかどうかは、処分当時を基準として判定すべきものであることは、いうまでもないところである。しかし、養子縁組無効の判決を、縁組が届出のときから法律上当然に無効であることを確認するにすぎないものとする、いわゆる確認判決と解する場合は、もちろん、創設的効力がある形成判決と解する場合でも、その確定によつて縁組が将来にむかつて無効となるのではなく、縁組届出のときにさかのぼつてこれを無効とするものであるから、高橋恒吉被控訴人と清子の養子縁組無効確認判決が、たとえ本件農地買収処分後に確定しても、右縁組は、その届出のときから無効であつたものである。したがつて、原判決に示すとおり、本件縁組届出があつても、恒吉と清子との間には親子関係がなく、清子は、恒吉が死亡しても家督相続により本件農地の所有権を取得するいわれはなく、被控訴人がこれを相続したものであつて、本件農地は、その買収当時すでに被控訴人の所有であつたものである。それなら、本件買収処分の所有者を誤つた違法は、右買収処分のときにあつたものといわなければならない。

二、控訴人の前記二の主張について

しかし、控訴人主張の場合に本件請求が許されないものとする規定はない。もつとも控訴人の右主張は、本件請求が信義則に照らし許されないものとするようにも解されるのでこの点について判断する。清子が本件農地の所有権を取得したような外観を呈するようになつたのは、被控訴人が夫恒吉および清子の両親の意思に基づかずその氏名を冒書して養子縁組届出をした直接の効果ではなく、恒吉の死亡によるものであるし、また本件買収処分は、清子との私的取引ではなく、農地法第六条第一号に基づき国が強制的に買収するものであつて、控訴人には元来本件買収処分取消によつて失うような利益は存しないものである。そればかりでなく、被控訴人が右の届出をするについて、本件買収を免れるためとか、その他の不法な目的を有していたような事実は、これを認めるに足る証拠はないのである。このような場合、被控訴人の本件買収処分の取消請求が信義則に反するものということはできない。

以上認定のとおりであるから、被控訴人の本件予備的請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。(昭和三四年一〇月六日仙台高等裁判所第一民事部)

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